2021年8月 6日 (金)

冬季オリンピックのもう1つの見どころ

もうすぐ始まる平昌オリンピックは、大韓民国の北東部に位置する人口約46,000(2004)ほどの場所で開かれる。北朝鮮参加による南北統一チームの結成や日本の首相の出席などスポーツ以外の政治、外交を含めた国際情勢にまで影響が及ぶイベント。当然、出場する日本選手の活躍に期待しながら、今回は冬季オリンピックとファッションについて少し考えてみたいと思う。

 

少し変わった形で始まった冬季オリンピック

公益財団法人オリンピック委員会によると、冬季オリンピックは通常「オリンピック」と称される夏の大会の開催から、遅れること28年。第1回大会はアルプスの最高峰モンブランのふもとにあるリゾート地シャモニー・モンブラン(フランス)で開かれた。しかし、実はこの大会はフランスが主催、国際オリンピック委員会(IOC)が名目的に後援して実施された『国際冬季競技週間(International Winter Sports Week)』で、これを翌1925年になってIOCが『第一回冬季オリンピック競技会』として追認した、という奇妙な経過をたどって、やっと日の目を見たものだった。

 そもそも冬のスポーツ競技といっても元来は、北方に居住する人達の交通、輸送手段が近代になってスポーツ活用されたもので、あらゆる地域で利用出来る訳ではない。一年を通して「雪」を見ない国もある。オリンピック憲章の根本原則にも掲げられている5大陸の対象としては、いささか地域色のある国際スポーツイベントといわざるを得ない。

しかし、この「雪」を見ない国が冬季オリンピックを目指したエピソードがある。それは1994年公開の映画『クール・ランニング』によって、広く知られるきっかけとなった。

南国ジャマイカを舞台に、男子4人乗りソリ(ボブスレー)競技に参加するまでを描いた。「雪」と無縁な国でチームとして冬のオリンピックに取り組む姿勢が何とも愛おしく描かれた作品だ。今回の冬季オリンピックでも「下町ボブスレー」プロジェクトとして東京都大田区にある複数の町工場で作られたソリを、当のジャマイカチームに供給している。

今大会では日本代表チームは出場を逃してしまい、1972年札幌大会からの連続出場が途切れてしまったが、日本が誇る町工場の技術が活きたソリに乗り込むジャマイカチームを、応援してみるのも良いだろう。

 

日本代表ユニフォームについて

 オリンピックはスポーツイベントであるが故に、競技ウエアはデザイン以上に追求されなければならないのが機能。勿論、プロトタイプとして開発される事もあるだろうが、

基本は競技愛好者に向けたものが多くあまり一般消費者に意識を向けた商品開発はしない。

そうした中で注目したいのは開会式。各国の様々なプレイヤー達がその国でデザインされたファッションを身にまとって一同に登場するパフォーマンスは、それぞれのお国柄が色濃く出ていていつ見ても楽しい。そして競技用ウエアに比べ開会式で着用するアウター類は一般向けに商品化しやすい。夏季・冬季に関わらず開会式、閉会式自体は、その国の技術と芸術性を世界に広くアピールする意味合いもあって、国家プロジェクトとして取り組まれるケースがほとんど。ひとつのエンターティメントとしても充分に楽しめる。

開会式は29()20:00から始まって22:30に終了予定。(日本との時差はない) 当初は低緯度で開催する平昌の雪不足が心配されたが、ここ数日の現地天気予報を見る限り、問題無さそうだ。それより屋根が無い会場での開会式や閉会式は相当な寒さが予想される。

日本選手団が着用する公式服装はAOKIが手掛けるのだが、ジャケット、ブレザーと云った正装で、オフィシャル・スポーツウエア類はアシックスが担当する。開会式は寒さから各国代表は皆、スポーツ系コートやダウンジャケットを着用。前回大会のソチオリンピックの日本代表団は、デサント社の白のウォームコートにネイビーパンツを着用していた。

今回、アシックスのコンセプトは「PROUD OF JAPAN(日本を、誇れ)」で、朝日が昇る力強さをイメージした赤(サンライズ レッド)のウォームコートに、海のような深い青(ジャパン シー ブルー)のパンツといったスタイリングでの登場となるようだ。

 

各国の代表ファッションにも注目!

冬季オリンピックに参加する主要各国の開会式ウエアにも注目したい。イタリアはArmani(アルマーニ)がオフィシャルユニフォームを担当するようだ。ジョルジオアルマーニから派生したセカンドラインの「エンポリオアルマーニ」のスポーツウエアチームが手掛けた。ミッドナイトブルーの生地にイタリアの国旗が入る予定。フランスはLACOSTE(ラコステ)が担当、上下白のセットアップに赤とネイビーのダブルジップが、何ともエスプリの効いた感じだ。ドイツはアディダスが担当、メンズはベージュのロングダウンパーカーでレディスの方はオリーブグリーンのブルゾンコートタイプと、メンズ・レディスでデザイン、カラーが違っているのが特徴。米国はラルフローレンで星条旗カラーのネイビー、レッド、ホワイトの3色ボーダー切り替のマウンテンパーカーを身に纏って何ともジーンズカジュアルな雰囲気。カナダはアウトドアブランドのコロンビアが担当、ドーピング疑惑により出場が危ぶまれているロシアチームでは、国産のスポーツカジュアルブランドのZASPORTSが担当している。

総てをチェックした訳では無いが、私、個人的にはフランスチームのウエアが好みだが、ファッションとしてのパワーを感じるのは米国のラルフローレンだ。今、ファッショントレンドの流れから若者達の間で古着ブームが再燃しつつある。その中でもラルフローレンの『ポロスタジアム』という1992年のバルセロナ五輪に向けて作られた限定コレクションが人気だ。その希少性からか現在も古着市場では高値で取引、昨年の9月には限定復刻版が発売されたが、行列を作って完売商品が続出したほどの人気だった。どちらにせよ、各国の代表団が開会式に身に着けたファッションはその時代を大きく取り入れたもの。

世界中の現在のファッショントレンドや、それぞれの国のファッション感度を覗き見る気分で観賞してみるのも面白いかも知れない。

 

東京五輪に向けて地元開催のメリットを活かしたい!

今回、韓国では「平昌ロングダウンコート」に人気が集まったそうだ。平昌五輪記念公演で人気アーティストが着た姿がSNSなどで話題になって、一気に関心が広まった。

又、有名ブランドのダウンコートが3050万ウォン(35万円)する中で、「平昌ロングダウンコート」は14.9万ウォン(15千円)と、購入しやすい価格設定だった事も影響した様子。3万枚という生産枚数とお手頃な価格のバランスが取れていたのか。と云うと、微妙な判断にはなるが地元開催を盛り上げる意味では良いニュースになったのではないか。

 オフィシャル・スポンサーをきっかけにブランドが生まれたケースもある。それはデサントの「オルテライン」だ。先にも触れた通り、前冬季オリンピックの日本代表選手団のために、生地を熱圧着して内部にダウンを仕込む技術を開発して、ダウンを固定するためのステッチを要しないダウンウエアを完成させた。デサントの自社工場のある岩手県水沢の地名を冠して水沢ダウンとして国内製造のハイクラスダウンを核商品に、2012年にブランドデビューした。今年も多いに人気を博したユニクロシームレスダウンは、デサントの水沢ダウンの技術を廉価に提供した商品といっても過言ではない。そう云った意味でも日本のダウンジャケット市場に大きなインパクトを与える事になった。

 

まとめ

 冒頭で語ったように競技ウエア自体は、一般消費者に向けられるものでは無いが最期に取り上げたデサントの「オルテライン」の様に、技術転用したケースもある。オリンピックを広告媒体として捉える事も出来るが、アパレルについてはサポートと供に投資して、技術移植によるビジネス転用させる事が重要だ。AOKIについてもパーソナルオーダーシステムの活用によって選手達の嗜好の選択肢を増やして対応している。

ファッションそのものの進化の歴史を観ても、軍事に関わる仕様が後に一般化されるケースが多い。これからはスポーツ競技からもどんどん技術移植して進化して欲しいと切に願うし、東京五輪に向けても大いに期待したい。これから始まる冬季オリンピック、競技観戦は勿論のこと、ファッションについても注目して観賞してみて欲しい。

 

 (2018年1月24日に執筆したものですOlympicrings1939227_960_720_20210806062401 Olympicrings1939227_960_720 )

2021年6月 9日 (水)

和装文化について考えてみる

総務省の二人以上世帯の家計調査をまとめたグラフを見てほしい。

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これは20年前から和服関連に関して年間の支出額の推移をまとめたもの。2000年当時は9,394円あったものが、直近の2021年では1,395円にまで落ち込んでしまった。もはや家計調査の支出項目の中でもに位置している。

 

これは日本人の和装離れといったレベルではなく、和装としての文化の存続自体が危ぶまれているような気にもなる。今回は日本の装いの歴史ともいえる和装ビジネスについて取り上げてみたい。

 

呉服着物の小売市場規模は横ばいから徐々に縮小傾向にある。矢野経済研究所の調査資料によれば、ここ10年間では2013年に3,010億円を記録したのをピークに、2019年では2,605億円と2割以上縮小している。

 

呉服着物そのものは、今や愛好家や伝統行事によって支えられている市場といっても過言ではない。しかし、成人式を見送った自治体も多かったことを思えば、様々な業界に甚大な被害をもたらしたコロナ禍が、和装業界にも少なからずダメージを与えたことは想像に難くない。

 

和装事業大手の株式会社一蔵の2021年3月期の第3四半期決算を見てみると、和装事業の累計売上高8,431百万円と前年四半期比1、セグメント利益は12百万円と前年同四半期比98.8%減と大幅な減収減益。一方で受注残高は3,363百万円と前年同四半期比で2.1%の増加している。

 

これは主に振袖事業に関した受注額の伸びで、直近のコロナ事情では悲観せずにいられないものの、。可愛い娘の成人式に振袖を用意する習慣は、孫に高級ランドセルを贈る祖父母の存在と共通しているのかも知れない。

 

ここで少し歴史を振り返ってみたい。日本に洋装文化が輸入され始めたのは明治以降のことだが、一般の人にまで普及したのはずっと先の話で、敗戦後の復興期辺りからの話となる。ここに昭和(1941年)当時の街頭アンケートがある。日本の伝統着だった和装が洋装化していった変遷の一端を解説しよう。

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先ずケート結果の特徴としてはっきりとしているのは、若い学生達と社会人・専業主婦(家庭婦人)との世代感による着こなしの違いがハッキリと見て取れることだ。特に女学生と専門学生の生徒達は普段着にも、外出着にも着物だけで通す者は一人もいなかった。

 

反対に一年中、洋服で通す者は家庭でも半分、外出の時はそれ以上ある。これは学生の特権で、明治・大正のころは学校で袴をはいても家へ帰れば必ず脱いでいた。昭和16年(1941年)ともなれば、洋服はすっかり身についた服装となって、家ではもちろん、買い物や映画や旅行でもそれで押し通すようになっていた。

 

ふだん着として支持を集めていた洋服は、いわゆる簡単着、ホームドレスの類という点だ。これは夏には涼しく快適で、実用性として十分に利用価値があった。しかし、それが外出着にふさわしい立派なものとは、彼女たち自身も思っていなかったであろう。きっと都会風俗の外出着の中では、洋装は未だ間に合わせの服という位置づけだったに違いない。デパート店員を始めとした大人の女性達の中では着物が、フォーマルな装いだった事がわかる。今でも成人式や結婚式といった晴れの日イベントでの登場が多いのもこの時代からの名残だといえる。

 

反面、若者の和装離れがこの頃より始まっていた。簡単に脱ぎ着の出来る洋服から、着付けそのものに技術を要する着姿に戻ることなかった。フォーマルな装いとしての文化が、世代継承出来なかったと考えられる。

 

しかし、時として和装がファッショントレンドとしてクローズアップされることがある。2016年、2018年にかけて映画化された『ちはやふる』の影響による大正ロマン着物。当時、都内の小学校卒業式では女子生徒の多くが色とりどりの袴姿で、特別な日を祝った。そして最近ではやはり『鬼滅の刃』だろう。この漫画も時代背景が大正時代で、主人公の妹が着ていた「麻の葉文様」はファッションマスクにまで取り入れられていた。新型コロナウイルスワクチン接種推進担当大臣までもが、記者会見でこのデザインのファッションマスクを装着していたぐらいに広がった。

 

日本の伝統ポップスの演歌界からも、新感覚着物として注目を集めた大物歌手がいる。ド派手な衣装で話題をさらった小林幸子。彼女の代表曲のひとつの「千本桜」は、初音ミクのカバー曲だ。配信ライブで袖を通した着物にはモナ・リザや英字新聞をモチーフにした和洋折衷姿で唱いあげる。海外では、ロシアフィギア選手たちの日本文化好きもよく耳にする。最近ではメドベージェワ選手が、2017年に京都で撮った自身の舞妓姿がSNSで話題になった。相変わらず外国から映る和の装いは、日本らしさと日本文化を代表するアイコンとして永く親しまれてきている。

 

つまり、コロナ禍にあっては、外国人観光客の来日も望めないし日本の伝統行事の催し自体が行われていないのは、着物や振袖を着る機会そのものが失われた危機的状況。和装ファッションにもスポットが当たっている現在だからこそ、SNSを始めに若者との親和性の高いツールを使って和装への関心を高めていく仕掛けが必要となる。

 

そうすれば、ワクチン接種率の高まりとともに日本の感染者数も抑え込まれた日こそが、抜群なハレの日となる。その時こそ米国の独立記念日のように、花火とともに日本の伝統的な和の装いでハレの日を祝うのも悪くない。

 

そして、コロナ禍によって止む無く中止になってしまったセレモニーを改めて催すイベントがあっても良いのではないか。特にハレの日イベントは、周りから祝われるものだし、長い人生の中の2~3年遅れの催しは許容されるレベルなはずだ。確かに、過ぎ去った時間は取り戻すことは出来ないけれど、特別な機会は周りから作り出すことは出来る。そんな懐の深い日本社会であって欲しいと、願わずにはいられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2021年2月18日 (木)

業態別トレンド 衣料専門店編

アスレディー市場を囲い込め

2020年東京オリンピックに向けてスポーツ界全体的に盛り上がりを見せている。

東京オリンピックの前年にラグビーのW杯、翌年は関西ワールドマスターズゲーム2021年と、

大規模な国際スポーツイベントを迎える事からスポーツへの関心や企業等の投資意欲、

スポーツを通じた地域、経済活性化への高まりが考えられる。

スポーツ産業が日本経済をリードしていくような成長産業として発展することが期待されている。

ファッション業界でもこうした流れを受けて欧米で先行していたAthletic(運動とLeisure(余暇)を

組み合わせた造語の「アスレジャー」スタイルをコンセプトに打ち出したブランドや

シーズンディレクションを展開する店舗がここ数年のうちに広がり始めた。

日本国内における「アスレジャー」スタイルの広がりの中で、大きな特徴として取り上げたいのは女性客の掘り起こしだ。

従来のスポーツテイスト市場と云うとメンズ主体といったイメージが強かったところに

新たなに女性をターゲットにアスレジャースタイルを取り組む例が見られる。

スポーツNBブランド筆頭にナイキでは女性限定のトレーニング&ランニングイベントを両国国技館で開催、

「躊躇していたことに改めて挑戦し、一歩踏み出したいという女性たちを後押しする」キャンペーンを展開。

女性ターゲットに啓発イベントに取り組んでみた。又、アパレルブランドとのコラボレーションでは、

ジュングループと組んだNERGY(ナージー)を東京、名古屋、大阪の3大都市圏で展開、

トレンドに敏感なオピニオンな女性達に向けて発信する。

アパレルブランドとのコラボレーションについては、アディダスの方がより積極的だ。

ファッション性を重視したオリジナルスというラインではアレキサンダーワンやハイク、

パフォーマンスラインではステラマッカートニーやカラーと云ったブランド。

最近ではマウジーと組んだコラボレーションを発表した。

国内ブランドではアシックスがマッシュスポーツラボの「エミ」とのコラボレーション、

アシックスウィメン(女性向店舗)の出店強化に取り組む。

こうした各社の女性目線を意識した「アスレジャー」スタイルの発信には、

女性の社会進出と云う背景があると考えられる。男性と同じように職場で働き、仕事のストレスや運動不足の解消と

「美」への憧れも相互に作用した女性版アスレジャーをアスレディー市場と名付けてみた。

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アスレジャー市場の概念図

「アスレジャー」の概念を別表のようにまとめてみた。

スポーツ市場を大きく3つに分類。本人自ら競技する領域を赤い半円で表記、

この領域は機能に特化したハイスペックなプロユース・ウエアやチームユニフォームやナショナルデザインと

いったそれぞれの競技に適したウエアの開発が中心となる。

こうした本格的な競技市場に対して存在するのがそれらを応援、観戦する市場だ。

青い半円でNPBの市場規模は1,400億円(2016年 朝日新聞GLOBE)、Jリーグでは937億円(2015年Jクラブ個別資料開示より)と云った感じだ。

ここ最近では広島カープの躍進と供に盛り上がった「カープ女子」に代表される広島カープの2016年のグッズ関連の売上高は53億円、

そしてリーグ優勝における経済効果は340億円と試算される程だ。

赤の競技領域に一部重なる緑の半円で描かれているのがヘルシー志向でスポーツを楽しむ領域。

健康、ダイエット、運動不足の改善などの目的を持つ領域。

その中でも競技市場とヘルシー市場が重なる部分をライトスポーツ的な要素として、その領域を「アスレジャー」と定義した。

拡張続けるネットショッピングとこれから

2016年度のBtoCにおける日本国内のEC市場規模は15兆1,358億円で、対前年比9.9%の伸び率となり、

不況続きの世の中とは別次元の成長が続く。ファッション業界に於いてもネットビジネスの存在感も増すばかりだ。

衣料品通販サイト最大手のスタートトゥディが手掛ける「ゾゾタウン」の時価総額が1兆580億円と

会社設立20年足らずで1兆円の大台を超えて同サイトのファッションモールとしての役割の大きさを印象付けた。

年々成長を続けるEC市場の大きなメリットのひとつには新ビジネスへの参入障壁の低さが挙げられるのと同時に、

難しは認知され浸透するまでに多くのコストと時間を要してしまう事。

そんな入れ替わりの激しいネット市場の中で消費者目線から見て今後も注目できそうなセグメントを4つ設け、

現時点で参加、サービス提供している企業をピックアップしてみたのが別表の通り。

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誌面の関係上、一サイトずつの解説は控えるが簡単に説明していきたい。

現在一番の主要セグメントになるのはお客が商品を買うネットショッピングサイトは云うまでもない。

次に注目したいのはお客が手持ちの商品を販売する為のサイトでCtoB、CtoCといった流通の違いはあるにせよ、

供にリ・ユース市場なのが大きな特徴だ。そしてシエアリングエコノミーとも称される借りるセグメント。

ここは定額/定数を選べてマンスリーにサービスを享受するケースが多く、中には晴れの日専門のレデイス・レンタルサイトもある。

最期がサービス機能と云うセグメントにした、新たに生まれたサービスや考え方を持ったサイトでまとめてみた。

仮想試着やオンラインストア上での接客支援、洗濯代行サービス等、優れた発想を持ったコンテンツは、

近い将来、主要サイトの補完目的に買収するケースも生じる事が予想されるセグメントだ。

(2017年8月16日に執筆したものです)

 

 

オートバックスセブンの異業種からの挑戦

カー用品販売大手の(株)オートバックスセブンが車を通じたライフスタイルショップ「JACK&MARIE」をオープンさせた。1号店は今年の3月に横浜ベイクォーターの3階に、この秋にはららぽーと名古屋みなとアクルス、横浜ラウンドマークプラザ、MARK  IS 福岡ももちと、一気に3店舗をオープンして4店舗体制となった。カー用品の取り扱いを本業とするオートバックスは国内603店舗、海外41店舗とグローバル展開をし、売上高も2116億円(営業利益72億円、ともに20183月末)。業界2位のイエローハットを売上高(1378億円)でしのぐが、その業界1位の企業がなぜ今、新規参入をするのか。

主力事業からの派生型ビジネスに取り組む

オートバックスセブンの売上高の84%を占める国内事業の中でも、主力事業はカー用品販売+サービスで8割を構成している。直近の売れ筋はドライブレコーダー関連で、これは今、話題になっている「あおり運転」からの防衛心理なども影響しているのだろう。その主幹の国内事業だが、同社では改革を進めており、2017年6月に2つのPBをローンチしている。1つが『クルマを使って楽しみたい(体験価値)』からJKM、もう1つが『クルマをもっと楽しみたい(自己表現)』からGORDON MILLERを。ともにクルマを通じて新たに価値を提供しようとするもので、JKMでは主にカーアクセサリーを、GORDEN MILLERではガレージキッドを展開している。

JACK&MARIEの基本スペック

さて、「JACK&MARIE」だが、西オーストラリアのパースを舞台に、オーストラリア人男性のJACKと、日本人女性のMARIEが、こよなく愛する「Café×Nature×Car life」がキーコンセプト。アウトドアライフを楽しむ人をターゲットとして、①「パッキング」、②「積み込む」、③「移動中も妥協しない」、④「車中泊」、⑤「サイトでCaféスタイル」の“5つの心躍るシーンを提案するライフスタイルブランドとなっている。

 ショップは、これらカー用品関係のPB商品を軸にしつつ、関連商品、雑貨をうまくセレクトして1つの世界観を作り出しているのが面白い。カー用品を背景にしているというよりも、ネイティブ感漂うアウトドアな印象を持ってしまうほど。実際、店舗の前面にはセレクトされたアパレル商品を着た男女のマネキンが出迎えている。

そのアパレルもシカゴのワークウエアブランドの「ユニバーサルオーバーオール」との協業商品や、国産ワークウエアブランドの「Johnbull」を品揃え。バッグ、シューズの他に腕時計、リング、ネックレス、サングラスやビニール傘まであり、ユニークな品揃えでは持ち歩き収納型オリジナル・スリムキャビネットやポータブルBluetoothスピーカー、レトロファン(扇風機)など。オリジナルデザインのポケットティッシュケースもあるなど、なかなか洒落た小物まで取り扱っている。

クルマ自体の価値観の変化に応じる

ファッションと同様にクルマについての価値観も変わりつつある。地方では生活の足として定着している半面、都会では若者を中心としたクルマ離れも指摘されている。クルマでもサブスクリプション化は始まっている。現在のカーシェアリングについて公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団による2018年3月の調査によると、車両ステーション数は1万4941カ所(前年比16%増)、車両台数は2万9208台(同19%増)、会員数は132万794人(同22%増)と、増加傾向にある。国内の新車販売台数も年間約400万台、中古車では800万台前後と、ここ10年くらいの推移を見ても増減をくり返しながらほぼ横ばい。少子高齢化を向かえている国内市場についてオートバックスセブンも従来のクルマを中心にしたメンテナンス、装備品といったサービスの拡張には限界を感じているはず。そこで同社の強みでもあるクルマを核に、ライフスタイルにまで取り扱い品目を広げた。又、ファッション性というスパイスを効かせた事によって、新たなお客との接点を模索してみた。

カーライフを背景とした品揃え

売場面積120坪(横浜ランドマークプラザ店)ある広い店内を、探索気分で回って見るだけの豊富なバラエティ感はある。「カーライフ」を背景にした品揃えは、他社での取り扱いがあまり無いため新鮮。それでいて店の雰囲気から“クルマ感”が程よく消されていて、アウトドアな印象にまとめられている点にはセンスを感じる。食器やホームウエアまで取り揃えられているのには感心した。カーアクセサリー用品でも日用品として代用できる商品もある。洗車ブラシは、家の掃除に用具として、LA直輸入のスポンジセットは台所用品としても使えるだろう。実際、オリジナル・マルチペーパーは、台所周りの掃除用として使えた。(ただし、調理用としては使えないので注意は必要)これは、取り扱い品目をライフスタイルにまで広げたから生まれた、新たなお客との接点となる要素だ。

家賃に見合った客単価と販売数を確保できるのか?

お店の運営面から考えると、テナント賃料や人件費、展示車のリース代などを合算してみるとショップコストは決して安くない。その割に取扱商品のプライスポイントが低いのは気になる。全体感からみるとセレクトしているアパレルは逆に割高に感じてしまうだろう。新規参入店の難しいところのひとつに知名度の低さがある。それは、よく知らない店で高額商品を買うこと自体に、お客にためらいが生じてしまい兼ねないからだ。そうなると買い上げ点数を上げるか、客数を上げるしかない。新規参入店としてここは、お客との信頼関係を築いていくことを優先に考えるべきだろう。例えばもっとオートバックス客との相互乗り入れメリットなど企業規模を活かした施策があって良いかも知れない。又、商品バラエティ豊かであるということは、言い換えると在庫リスクも抱えることとなる。当然、商品によって回転率にバラツキも生じていく中で、いかに鮮度のある売り場を維持させられるのか、ストアマネージメントが求められるはずだ。

先行企業からみるビジネスの規模感を想定

サーフカルチャーを感じさせるショップとしては、(株)サザビーリーグが運営する「RonHerman」や(株)アーバンリサーチの「UR Sony Label」、(株)アダストリアの「BAYFLOW」、(株)ライトオンの「Naughty Dog」(2020年に撤退)があるが、このショップ群には価格帯がハイエンドからロウエンドまでそろっている。「JACK&MARIE」のこれら同テイストのショップとの違いのひとつにアパレル構成比の低さを武器にしたい。豊富な雑貨、用品の品揃えを特徴として独自のポジションを築いていけるのか、興味のあるところだ。

現在、横浜を中心に店舗展開しているのは良かったと思う。やはり、日本のサーフカルチャーを発信する地として横浜はベストな選択。しかも米国産を中心としたクルマ文化も盛んな土地であることを考えても良い環境なのは確かだ。

後は、将来的にどのくらいの店舗数の規模感を考えているかだ。それはプライスレンジにも関係するが、ハイエンド側から順に「RonHerman」で14店舗、「UR Sony Label」のオンリーショップで8店舗、「BAYFLOW」46店舗、「Naughty Dog」で32店舗(2020年に閉店)。

「JACK&MARIE」は、「UR Sony Label」と「BAYFLOW」の中間値くらいの価格感だろうか。しかし、思い切って品種を縛り込んで、生活雑貨中心とした店舗業態にして出店しても面白いかもしれない。そうすれば、パルグループの「salut!」(36店舗)あたりの雑貨店が競合としては浮上しそうだ。

 

オートバックスセブンの直近10年の業績推移を見ると2009年の売上高2591億円をピークに、ややシュリンクしている印象だ。海外進出もフランス、タイ、シンガポール、中国、マレーシアと5カ国に進出しているものの、苦戦しているように見える。他にディラー事業、BtoB事業、ネット事業、ドローンの販売と主幹業務以外の収益の拡大を計画中だ。

今回のチャレンジもそうした動きのひとつとして新たな事業の柱となり得るか今後の戦い方に注目していきたい。

(2018年12月20日執筆したものです)

2021年2月16日 (火)

90年代ファッションはブランド主義の復活でもある!

ヤングマーケットを筆頭にオーバーサイジンングの着こなしが増えている。朝の通勤時間にズリ下がったリュック姿を見ると思わず苦笑いをしてしまう。まるで昔の自分を観ているようだから。

そう今、ファッショントレンドは完全に90年代に向かってカジを切り始めている。

空気を読む!?個性を消した時代

*ノームコア(Normcore)と云う、偉大なる普通服!?と呼ばせてもらおう。ファッション・シーンにおいては永らく普通服がスタンダードで格好良かった。何処のブランドって訳じゃないけど、オックス生地のボタンダウンシャツに袖を通せば誰だって、3割増しに賢そうに見えたものだ。とある大学のキャンパスの風景からもデニムシャツ+チノパン、赤チェック+ジーパン姿の学生達がクラスメートと着てきた服が被ってしまった、画像がネットに流れて失笑もした。その場の空気を読めばこの格好と、完全に『個性を消した』時代だった。

双子コーデの登場!

その『個性を消した』時代の産物のひとつが双子コーデ。みんなでドレスコードを決めてお揃いのファッションで出掛けるのは、同じデザインの洋服を着る事で味わえる一体感を楽しむのであって、制服や作業服と何ら変わらない。

今、手元に90年代に発売されたファッション雑誌『Boon』があるが、もう一度この時代が来るのかと思うとニヤけずには要られない。いつの時代でもそうだが、ファッションは完全な焼き直しに(リバイバル)は成らず、必ずその時代の技術や色が加わってくるから面白い。

セレクトSHOPでは懐かしの~がオンパレード

さて、本題に入ります。それはとあるセレクトショップのトラックパンツの品揃えにビックリしたことから。ナイキ、アディダスは、まぁ分かるとしても。リーボック、レノマ、カールカナイ、FUTUR、チャンピオン、ティンバーランド、BLSって、コリャ何でもアリ!? 

この春はFILAのナイロンパーカーを店頭で随分と見かける、それも大胆な色使いの切り替えで。そしてそこには大きくブランドのロゴが入っている。一般の人からするとブランド=マーク()だから覚えやすいし、分かりやすい。その大胆なデザインがブランドの印象となって、そのままブランドの魅力になっていく。

ブランド選択の時代へ

こういった図式が増えれば増えるほど、今度はブランドが与える影響力が強まってくるし、消費者も購入・識別のひとつにはっきりと「ブランドの選択」が加わる。昨年冬のカナダグースやノースフェイス・ダウンJKの人気などが良い兆候。これから夏に向けて、懐かしのサーフブランドやTシャツ肌着ブランドのマークやロゴをもっと目にするかも。

そして大衆的で普通のファッションから、個性をアピールするのが格好良い時代が訪れる。

そのきっかけになる年かもしれない。

 

*ノームコアnormal hardcoreの造語で究極の普通を意味したファッションスタイルを指す。ニューヨークが発信源とも、スティーブジョブス氏の黒のタートルネックにジーンズ姿がアイコンとして紹介されることがある。

(2018年3月14日に執筆したものです)

 

 

映画;シャネルからファッション史を学んでみる

男性にはあまり縁のないブランドではあるが、世の女性達にとって憧れの高級ブランド『CHANEL(シャネル)について取り上げてみたい。1910年創業のシャネルは、ココ・シャネルがパリ1区カンボン通り21番地に「シャネル・モード」という名で帽子専門店を開店したのが始まり。先ず、このココ・シャネルという名前自体本名ではなく「ココ」とは、愛称であって本名はガブリエル・シャネル。エルメスやルイ・ヴィトンと云った高級ブランドは王侯貴族や特権階級の人達からのニーズによって育まれたのと違って、シャネルはそう云った庇護を全く受けずに生まれ、結果的にそういった人達にまで愛されるブランドに育っていったのが、他のラグジュアリーブランドとは一線を画したブランドだろう。

又、デザイナーのココ・シャネルは孤児院で生まれ庶民階級に属し、デザイン、縫製、ビジネスに付いても全くの素人。それでも新しい「美しい女性像」を追い求めてこだわり続けた。有名なエピソードの一つに、首から断ちバサミをブラ下げて、気に入らない箇所はバシバシ切ったとか。又、活躍期に第二次世界大戦中のドイツ占領下でのパリや、連合国によって開放されたパリと、激動した世情も様々な形でシャネルに影響を及ぼす事になった。1939年に一旦、引退するも1954年に見事カムバックを果たす。恋多き中、生涯独身を貫いた生き様は正に映画のような一生!!と。

思いきや、何とシャネルを題にした映画は4本もある。その4本とシャネルが衣装協力など含めて関わった作品3本を、一覧表にまとめてみました。創業デザイナーしかり、現役デザイナーも大御所カール・ラーガーフェルドですから。まぁ、色んな意味で画になるラグジュアリーブランドなのでしょう。

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では、最期にシャネルがレディスファッション界に影響を与えた6つのレジェンドを紹介します。

:ニット素材(ジャージ)のスーツ

:パジャマルック(女性のパンツスーツ)

:シャネルNo.5香水(様々な花の原料に化学合成品を加え大量生産を可能にした)

:リトルブラックドレス(カジュアルにもフォーマルにも装える)

:ハンドバッグ2.55(クラッチタイプのバッグにチェーンストラップを付けて女性の両手を自由にした)

:コスチュームジュエリー(貴石だけじゃなくイミテーションも組み合わせたデザイン)

今では何も珍しくない出来事に思えても当時は、当たり前の様に考えられていた価値観を壊していったのでしょう。特にリトルブラックドレスはシンプルなデザインだったからこそ、コピー化が可能になり、誰でもシャネル風のリトルブラックドレスを買えるようにもなったそうだ。

コピーされることは賞賛と愛をうけとること

と、当のシャネルは自身の商品コピーについて意に介さなかったらしい。勿論、発言当時の社会情勢や倫理観は現在と違うので一概な評価は控えたいが、私は感服した。

 ファッションと階級社会の関係は、歴史を振り返るに従って濃厚な関係が築かれてきた。

それは洋の東西かかわりなく、種別、識別、権力、共通理念とファッションが人類に与えてきた役割は、今では想像出来ないほどに大きかった。そうした旧時代をブレークスルーした気鋭のデザイナーとして心に留めておきたい。皆さんもこの機会に是非、劇場、アマゾンプライム、ネットフリックスなどの最新デバイス等でシャネルについて触れてみてください。新しい価値観のファッションが、数多くの女性達の働き方や生活を変えていった、時代のパワーを感じます。そして今日、我々も新たなテクノロジーやアイディア、研ぎ澄まされたセンスによって、価値観を変えてしまえるくらいのファッションを作りたい!!

(2018年5月9日に執筆したものです)

 

 

 

オマージュが紡ぐファッションのクリエイトについて

世の中、ニセ物があるという事は当然本物もある。食品の世界では第二次世界大戦が始まって以降、醤油の代わりに代用醤油が。砂糖の代わりにサッカリンやズルチンといった人口甘味料。日本酒の代わりに三増酒、焼酎の代わりにカストリが造られた時代があった。その当時の代用は必要に迫られて生まれたもので、原材料が手に入らないから仕方ない。それは貧困の時代を支える貴重な食料となった。又、精肉代わりに食べられたホルモンはその後、市民権を得て今日では立派な本物料理に格上げされた例さえある。

ブート品の摘発

警視庁生活経済課などは5日までに、グッチやシャネルといった高級ブランドのロゴを無断使用した「ブート品」と呼ばれる古着を販売目的で所持したとして、商標法違反容疑で衣料店経営の男女2人を逮捕した。同課によると、ブート品の摘発は全国初とみられる。逮捕容疑は池袋、原宿等の複数の店鋪で、グッチやシャネルのロゴを無断使用したTシャツやトレーナーなどを販売目的で所持した疑い。「ブート」とは「密造、違法の」などの意味を持つ「ブートレッグ(bootleg)」の略語。非正規ルートとして流通した物や、海賊版等も含まれる。私も90年代頃だったか好きな有名バンドのスタジオデモの音源が録音されたCDを「ブート盤」として購入して聞いていた。  

本家が認めたブート品

 実は今、ファッショントレンドとしてこの「ブート」が注目され始めている。昨年発表されたGucciのコレクションの中にDapper Dan(1982年にハーレムで偽Gucciや偽Louis Vuittonを売っていた有名店。1992年に訴訟が起きて閉店)のデザインに酷似した商品が、発覚。Gucciのアートディレクターも公に認め「Dapper Danへのオマージュ」と云ったコメントを残している。又、SupremeNIKESBラインで出したジャケットの元ネタにDapper Danが「ブート」デザインしたものが使われていたりする。「ブート」デザインを本家がオマージュする、そんな逆転の現象が起きているのだ。

日本での商標権、意匠権、著作権と現状について

日本のファッションロー(fashion law)の考え方には、ブランドを守る商標法、デザインを守る意匠法、著作物を守る著作権法などが含まれる。特に日本では「実用品は著作権では保護しない」という原則があって、ファッションショーの中でモデルが身につけたコーディネイトは著作権にあたらないとの判決も下っている。では、なぜ実用品のデザインは著作権では保護されないのかというと、意匠権という別の権利で守る仕組みがあるからだ。しかし、この意匠権は出願から登録までに7カ月を要し登録、維持費もかかる。自動車や電化製品といったライフサイクルの長い消費財ならまだしも、シーズン単位で生まれ変わるファッションに関して意匠権は使いにくいのが現状だ。

 もはや、ネット社会が浸透した現代では世界中のランウェイやコレクションの情報を、世界中の誰もが簡単に手に入れられるようになってしまった。昔は、ランウェイやシーズンコレクションを行うブランドと、それらのデザインをコピーして安価に供給するブランドはサンチェ(Sentier)ブランドと呼ばれてバカにしていた文化もあったようだ。それがいつの間にやらファストファッションともてはやされ、H&Mでもショーを開催したり、一流デザイナーとコラボレーションしたりして、両者の境界線はいつの間にか随分と薄まりつつあるのかも知れない。

 

 完コピによって、元の製作者の労力や知的財産が侵害されるのは許されないと思うのだが、バンドワゴン効果によってトレンドやブームが作り出されるのもファッション産業。「本物とニセ物」。断じにくい世界がこの業界の特徴のひとつでもある。

(2018年7月12日に執筆したものです)

 

 

 

 

ABCマートがチャレンジする新たな波

 靴専門チェーン店のABCマートが好調のようだ。2018311月までの連結決算で累計売上高1961億円(前年同期比4.0%)、営業利益337億円(前年同期比1.7%)と同期間として3年ぶりに最高益を更新。20192月期末には創業40周年の記念配当40円を実施、普通配当130円と合わせて年間配当は170円と大盤振る舞いをする。好調要因のひとつとして挙げられているのは、「アスレジャー」(街にも着ていけるようなスポーツスタイル)の流行を追い風に、主力のスニーカーが販売好調だったこと。そして未だ取扱量、売上高構成比は低いものの、アパレルが前年同期比で2ケタ増の高い伸びを記録したことによる。

片やスポーツカテゴリー大手のアルペンでは、年明け早々に4565歳未満の社員を対象に300名規模の希望退職者を募るといった状況もある。同じように「スポーツ」をキーワードにカテゴリー総合取り扱い大手のアルペンと、シューズ専門店として成長してきたABCマートとのこの差は何だろうか。今回は好調ABCマートの最新業態店の取組みや、克服すべき課題について考えてみたい。

ABCマート・グランドステージ銀座店のリニューアル

 ABCマート・グランドステージは従来の品揃えから高価格帯の靴やアパレルを取り扱う大型店で全国に15店舗を展開している。その中でも昨年の10月にリニューアルオープンした銀座店は旗艦店としての位置づけだ。銀座2丁目に地上3階建てで内装デザインを、米国シアトルを拠点とした設計事務所の協力も得た上質な空間造りとなっている。出店場所自体、海外旅行者のインバウンド需要も期待できるし、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックの競技場や選手村・各国のメディア拠点が集中する東京ベイエリアに近いことも出店意図のひとつと考えられる。

1階は、最新スニーカーで片面をナイキ、もう片方をアディダスと2大NBを中心とした品揃え。アスレジャースタイルを全身マネキンでアピールして、子供専用コーナーも設置した。2階では、その他のスニーカーに加えて直輸入したビジネスシューズを展開している。3階は関連会社でもあるレザーシューズ&リペア専門店「STUMP TOWN」が出店。「Danner」や「WHITE’S BOOTS」といったアメリカのブランドを中心とした20万円を超えるハンドメイドブーツなどを取り扱う。建物全体を見渡してみると、ややカオスとも思える世界観だが、フロア単位・コーナーブロックで区切られているため、大きな違和感は無かった。

好立地で集客が実る

この銀座店の活況振りは立地の良さがあげられるだろう。外国人観光客以外でも銀座には幅広い客層を呼び込む素地がある。若いファミリー層やその上の大人世代に「アスレジャー」の世界観を打ち出すには、店舗の広さも含め伝わりやすかったと思われる。又、それぞれNBブランド単位で際立たせたやり方は、ビギナーを含めた幅広い客層へのインパクトには充分な迫力があった。

ABC以外の業態店では苦戦

 銀座店のオープンに際し野口実代表取締役社長は「マーケットのカジュアル化とともにスニーカーやデニム、スウエットなどのカジュアルさに価値を見出して投資するマーケットの頂点で我々は新たなカジュアルの波を作っていきたい」との要旨の発言があった。

しかし、この新たなカジュアルの波作りは試行錯誤しているように見える。それは2015年に立ち上げた「CALIFORNIA・DEPT」、「BILLY’S」の両店舗とも、未だ道途中といった印象を受けるためだ。「CALIFORNIA・DEPT」は米国西海岸のライフスタイルをコンセプトにライセンスブランドのVANSを中心に人気ブランドとのコラボレーションやファッション誌への掲載で集客を図っているものの、認知、ストアロイヤリティの浸透には、未だ時間が掛かりそうに感じる。又、「BILLY’S」の方は高感度なスニーカー・セレクトショップとの位置づけだが、こちらは株式会社テクストカンパニーが運営するatmosやkineticsに押されてしまっている印象。

急成長株として注目のテクストカンパニー

このテクストカンパニーは、97年設立の高感度スニーカーセレクト専門店。現在、国内38店舗、海外4店舗で売上高も100億円に届きそうな勢いのある注目店だ。特徴のひとつには坪効率の高いビジネスモデルで、売り場面積が90~120㎡クラスの店舗もあって日販100万円を超える店舗もある。ECの売上構成比は35%と無店舗による売上構成比も高い。コラボレーションを始めストア別注、拘ったセレクションに定評があって海外ツアー客からの人気もある。その背景にはスニーカー・オタク的に「スニーカー愛」の高いスタッフと、カリスマ性のあるオーナーとのコンビネーションが良い回転軸を生み出しているのだろう。特に池袋、新宿、渋谷、原宿といったエリアでは、高感度な商品を買い求めに来る若者が多いエリア。こうしたトレンド発信地では、しっかりとしたストア・ドメインを確立していかないと、オピニオン・リーダーやインフルエンサー達から支持を集めるのは難しい。「高感度」は自らの発信というより顧客に認められて初めて成立するビジネスなだけに、人材とノウハウが必要なのだ。

ライトオンとのコラボレーション店舗

他に、新たな取組として注目したいのは、ジーンズカジュアル大手のライトオンとのコラボレーション店舗。2017年に富山と岐阜にそれぞれ1店舗ずつ出店、双方の強みを活かしたコラボ店舗は、服と靴を一度に揃えられる利便性を特徴としたタッグ。又、人口減少、流出問題を抱える地方に向けて、運営、出店コストを軽減させるやり方として取り組んでいる。従来のカテゴリー枠を超えて、2社共同で運営するスタイルがひとつのロールモデルとして広がっていくのか気になるところだ。

さらに拡大しそうなスニーカー市場

ファッション・トレンドからみても、スニーカーブームは未だ当分続くだろう。それは「世の中のカジュアル化」も背景としてある。休日の外出、レジャー、旅行、スポーツ、ビジネスといった幅広いライフスタイルシーンにまで、履き心地が良いというスニーカーのエッセンスは浸透していく。日本のスニーカー市場はさらに新規参入、拡大、選別・淘汰が、繰り返されていくだろう。その中で優良靴チェーン店としてABCマートの次のビジネス・ステップの成否も合わせて注目していきたい。

(2019年1月24日に執筆したものです)

 

 

【銀座オトナ女子着用実態調査】注目のワンピの着用率は1割!

先月の春分の日の銀座で撮影したストリートスナップのリポート第二弾。サンプル数100人(30代、40代)を目安に105人撮った。今回のリポートは注目トレンド、スタイリング、ボトムスにフォーカスしてお届けしたい。

さらに勢いを増しそうな「柄者」

今まで無地ボトム一辺倒だったレディスボトム市場もチェック柄のスカートから、花やレオパードといった総柄ボトムの着用が目立ってきた。特に花柄に関しては、大人エレガンス、甘めフェミニンとテイスト横断的に広がりつつある。それぞれのテイストに合った柄の大きさや密度、素材選定が重要で、これから夏に向けてさらに増えていきそうな勢いを感じる。

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注目はネオ・レオパード

3年前にZOZOTOWNが調べた調査結果によれば、ヒョウ柄商品の購入額が一番高かった県はなんと埼玉県。大阪じゃなかったの?なんて意外な結果も思い出します。(大阪は2位でした)

そして近ごろ出没しているのがレオパード柄、旧態依然のヒョウ柄と何が違うのかといえば、あまりアニマル臭のしないスマートなデザインが特徴。大きさや色も含めて、変形ドッド(水玉)くらいの感覚で着こなしていくのが新しい。

いずれにしても個性的なデザインとして世には「花好き」、「アニマル好き」も要れば、「~嫌い」も同様に存在する。そのどちらでもない人も含めて「着てみても良いかな!?」、「買ってみようかしら」と、思わせるほどに盛り上がるのか注目したい。

 

銀座大人スニーカー女子は28人

空前絶後のスニーカーブームである。休日の銀座へお出かけシーンでもスニーカー着用率は3割弱だった。写真で特集したようにフェミニンアイテムのスカート、ワンピにもスニーカーを合わせるのも、90年代トレンドのリバイバルだ。そして今のオトナ女子の気分はスニーカーから得られる履き心地の良さや開放感を楽しんでいるのである。

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春先に映える純白ホワイト

そこで、今回スニーカーを履いていた28人を一部抜粋、まとめてみた。スニーカーとひと言でいえども年齢や着用シーンで選ばれるデザインも異なる。銀座オトナ女子の一番人気は、レザータイプの上質感のあるスニーカー。着合わせやすさとキレイ目な印象は銀座街と好相性なのだろう。カジュアルな印象のキャンバス素材ではクロの方が4人と人気。  これも場所、対象年齢による特徴なのかアクティビティなスニーカーとは反対の結果に終わった。最期にヤングトレンドの厚底スニーカーは2人とレオパード柄程度の出現人数に終わった。

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ロングスカートが1番人気

今回、ボトムで一番着用者が多かったのがスカート。スカート丈は短い順からミニ丈=6、ニー丈(膝)=12、ミモレ丈(ふくろはぎ)=12、ロング丈=15人と長い丈のトレンドはこの春も継続。写真2位のような春を感じさせるボトムの定番はホワイトジーンズ。今年はジーンズ以外に、スカートやアウターでもホワイトが人気。バスクデザインのニットにスニーカーを合わせるあたりも今年らしい着こなし。写真3位のチェックのシャツアウターを羽織ったカジュアルなスタイリングも、ネイビーボトムでキチンと感で整えるのが大人カジュアルの基本。銀座らしい着こなしに好感が持てる。

ワンピース着用率の今後

冒頭で触れたファッショントレンドの着用人数は105人中4~2人で着用率にしても2~4%くらいの話。そうした中で10.5%の着用率は立派なヒット商品といって良い数字だろう。キレイ目なよそ行きからシャツ、Tシャツ、ドッキングも含めると、ファッションテイスト横断的な着こなしとして広がりつつある。しかし、これから気温が上昇していく中で、ボトム一体型のワンピースはもたつき感から敬遠されがち。代わって、ロングシャツやTシャツが台頭しそうな平成最後の春の銀座だった。

(2019年4月10日に執筆したものです)

 

 

 

【最新ファッション】大人女子の人気春アウターを調べた!

 春から初夏へ。今年のレディスファッション売場では華やかな色、柄、素材の商品が並んでいる。

店頭では生活者の1歩先あるいは2歩先くらいのトレンドを示してアピールする必要があるが、(ファッション業界に携わる多くは洋服好き集団といえども)ターゲットとしたい生活者のファッション感度を推し量るのは意外に難しいものだ。

特に難しいのが、生活者の1歩先の歩幅を見極めること。そこで生活者は今、どのようなスタイリングをしてお出掛けしているのか、サンプル数100人(30代、40代)を目安としてストリートスナップを撮影。現在のリアルトレンドをまとめた。

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堂々の1位!春一番が吹いたら大人トレンチ

アウター着用で1番多かったのは春アウター定番のトレンチコート。全体でも3割に迫るほどの勢いがあった。この定番アウターがここまで伸びた理由は、サイジングの変化による買い換え層がプラスされたことも影響している(丈長でオーバーサイジングがトレンド)。

そして急激な気温上昇から、冬仕様のコートを脱いでニットトップスで歩いた人が2番目に多かった。

同率3位は2アイテム、コーディガンは“気持ちは春、体は冬”を体現すように半数は冬素材の春カラーだった。近年女性でも本格仕様のライダース愛好者まで生まれるライダースジャケットも3位につけた。

半数以上がコートを着用

全体をコートでくくると63人と半数以上がコートの着用という結果。

3位以下を見てもコートアイテムがズラリと並ぶ。上からノーカラー、チェスター、ステンカラー、モッズコートの人気順。ロング丈アウターのトレンド感は強く、ニーレングス(ヒザ)までをミドル、それ以上をロング丈としてカウントした場合、ミドル/ロングで31/27人。それぞれ半々くらいの比率だったのは、銀座という場所も大きく影響していると考えられる。

その他15人は2人以下の着用アイテムで、主な内訳はダウンベスト、トレーナー、Gジャン、パーカー、テーラードJK、ブルゾン、長袖ポロシャツなど計12アイテムが並んだ。

「ベージュ+ホワイト」で56人

アウターカラーを見ていくとベージュが1番多い、そのうち、トレンチコートが26人と半数以上を占めた。残りもノーカラーコートやモッズコート、ステンカラーコートも合わせてベージュ系コートで、軽やかなスプリングコートとしての印象が強かった。

2番目はホワイトでアウターカラーとしては珍しい色がランクイン。ホワイトの中で1番多かった商品はコーディガンで3人、他は11アイテムに分散している。

3番目のブラックではライダースJKが7人、ニット&セーターが3人で大方を占める。4番目のネイビーはホワイト同様に偏ったアイテムはなくカーディガン2人を筆頭に7アイテムが並んだ。

全体で見ても「ベージュ+ホワイト」が56人と半数以上なのは、柔らかく軽装感のある色のアウターが人気だということ。トレンドの丈長でオーバーサイジングと面積の広いコートでも、見た目の軽さが重視されていることが分かった。

春コートのトレンド観測にぴったりの日だった

撮影をした今年の春分の日は、日本海側に張り出した低気圧の影響から都内では朝に雨が降った。午前中は曇りで気温も低くめで昼前あたりから日が出て気温も急上昇。最高気温は22.3℃を記録し、暖かな南風ではあるものの風速9mで疾風に分類されるほどの強風が吹いた。それは春コートのトレンドを観測するには好条件だったことも最後に付け加えておきたい。

(2019年3月29日に執筆したものです)

 

 

 

 

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