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2020年10月

2020年10月17日 (土)

2020年1月寄稿:島忠プロデュース「CARABINER」(カラビナ)の公算を問う

首都圏を中心に展開するホームセンター島忠のショッピングセンター業態「ホームズ」。2019年1031日、埼玉県所沢市にある「ホームズ所沢店」を売り場面積4242坪へと約2倍の拡張リニューアルを行った。そのリニューアルオープンの目玉のひとつに島忠初となるアパレルブランド「カラビナ」の出店があった。自社売り場内での展開ではなく、あえて単独店として出店させたその狙いと今後について考察してみたい。

 

独自性を築けるのかが鍵

1階からエスカレーターで昇った正面に位置する好立地で、隣にはGAP OUTLETとスポーツ用品MIZUNOに挟まれている。この2階は家具インテリアを中心としたフロア構成になっているものの、他に100均のダイソーやヘアカットや女性専用フィットネスといったサービス業態も含めた11の専門店をテナントしている。その中でアパレル専門としてはGAP OUTLETと「カラビナ」の2店舗のみ。ファミリーイメージの強いGAPに対して、「カラビナ」はレディス、メンズに特化した形で展開。GAPの方が売り場面積も格段に広く品揃え点数も多いという条件下では、ファッションテイスト軸として、GAPと被らず商品特性についても明らかに優位に立てるような商品政策が求められてくるはずだ。

その為か「カラビナ」は「My Utility Wear 夢中になれる服」をテーマに撥水、吸水速乾、防寒などの機能性と耐久性を兼ね備えた素材を中心に、シンプルでスタイリッシュなデザインを採用してリーズナブル価格で展開していくとのコンセプトには納得がいく。

 

しかし、およそ100坪ほどの売り場にシンプルなパイプだけをつなぎ合わせた店舗外装に新しさは感じられても、それ以外に感じ取れる情報量は極めて少ない。採用マネキンも何ら特徴のないポージングで、商品性能をアピールする様な仕掛けもなく商品がハンギングされているだけではアピール不足と云わざるを得ない。その結果、店舗の新規性よりも認知・知名力の低さの方がまさってしまい、新規によるお客の立ち寄りはあまり期待できないのではないか。

プライスラインは税抜き価格で¥298/¥398/¥1,980/¥2,980/¥3,980/¥4,980/¥5,9807ポイントのプライスを揃えている。品揃えの最も多いプライスポイントは¥1,980/¥2,980/¥3,980。普段使いを意識した価格帯と考えられるが、隣接するGAP OUTLETはもちろんの事、半径5Km圏内にあるジーユー(4.4Km)やしまむら(3.2Km)、ワークマンプラス(5.3Km)と比較しても決して「安さ」が際立つことはない。

マネキンに着せたコーディネイトを見ると着装シーンが漠然としてしまっているせいか、少しお洒落なワンマイルウエアか普段着といった印象しか持てずもったいない。ブランド名となっている「カラビナ」は、アウトドア用具でもあり、ブランドアイコンにもなっている。本格的なアウトドア装備までこだわらなくてもBBQやライトキャンプ向けなどシーンを明確にした機能で訴えていくやり方にしないと、今後の成長は期待できそうにない。

 

アパレルショップ運営方法に課題も

そして何より驚いたのは、ショップスタッフが不在だった点。お邪魔したのは土曜の昼だったのだが、ランチ休憩か人手不足による欠員かはわからないがオープンして未だ2ケ月も経っていないのに。店内にフィッティングルーム、靴まで取り揃えているにも関わらず「ご用命の際はミズノのスタッフへお声掛けください」では何ともお粗末な対応である。

アパレルビジネスを舐めているのか、セルフ対応の店舗オペレーションに浸かってしまった結果、お客の心理が理解出来ていないのだろう。当然、こんな状態では結果など出るわけもなく、店内では早々にMAX70%OFFの処分セールを実施していた。

 

 市場規模の停滞感漂うホームセンター業界では、アパレルに積極的に取り組むケースが見られる。わざわざ流通在庫も著しく市場飽和とまで指摘されるようなアパレル市場に。その理由は「ワークマンプラス」の成功が影響しているのではないかと推察する。成功要因は明らかに違うものの、アプローチの仕方によってアパレルもまだまだ成長余地アリと判断したためのものだろう。業界大手のカインズでも今秋からエドウインとコラボレーションした新ワークウエアブランド「EDW」をローンチ、コーナー展開している。

ホームセンターという売り場面積の広いロケーションの中で用途目的以外のニーズを引き出さないといけないファッション性を売り込むのは難しい。そのため「EDW」ではコーナーを埋没させないように「イロ」で訴求した。赤いTシャツトルソーやカウンター、レールPOPなどの販促物を赤く目立たせ、店頭ではコンパクトモニターを用意してPVを流してイメージ訴求につなげた。今回の「カラビナ」のリリースについても同じような選択肢が生まれたに違いない、自社内かスピンアウトか。後者を選んだ島忠の判断はより多くの人に認知してもらう点については正解だったかも知れない。

スペシャリティであるべき

 総花的な広がりを見せるアパレル市場に向かって、新規参入を図っていく効果的なやり方のひとつに『専門特化』がある。身近な成功事例はワークマンプラスで作業服というカテゴリーを専門に扱ってきた。そのカテゴリーにおける機能や快適性を探求して、NBスポーツのようなデザインエッセンスによって同業他社と差別化を図った。しかもそれらを安価で提供した結果、多くの支持を集めることが出来ている。そこには作業服という業務用ニーズをベースとした既存客があることを忘れてはならない。そういう意味においては未成熟な業務用ウエアというカテゴリーの発見も肝要となろう。未成熟な業務用とは既に着用しているものの何かしらで代用してしまっていたり、機能ばかりに特化してしまい格好良くなかったりするウエアのこと。『専門特化』という切り口で見た場合、「カラビナ」には専門性が感じられない。仮に休日着、遊び着だったとしても家のくつろぎやライトアウトドアでも着用メリットや着た後の爽快感がイメージできるような演出が必要だ。

 

そして、ここからが問題である。なるべくしてなった結果から、一体何を教訓として得るのだろうか。初めての取組に時間をかけ労力とお金をかけて、自分達にフィットしなかったと学習するのか、それとも反転攻勢、修正を加えながら運営し続けるのか。スピーディな時代の中で、インパクトが残せない存在は忘れ去られてしまうだけ。新規性以外に存在感を知らしめるのは並大抵にはいかないのも事実ではあるが、これからの失地回復に期待したい。

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