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2020年11月20日 (金)

ニトリのアパレル実験店舗「N+」で何を問う?

 32期連続増収増益を記録するニトリホールディングスは、今や押しも押されもせぬ一大家具チェーン店だ。店舗数は576店を数えアジアを中心に海外にも71店舗を出店している。国内市場ではこれまで地方・郊外型の大規模店舗を中心に出店してきたが、近年は都心型のDECO-HOMEを展開して都心部需要を取り込んでいる。20192月期の売上高は60813100万円(前年同期比6.3%増)、営業利益10077900万円(7.9%増)、経常利益10305300万円(8.6%増)、親会社に帰属する当期利益6818000万円(6.2%増)と増収増益となった。

 

新店舗の名は「N+」(エヌプラス)

その好調ニトリがアパレル専門店を密かにオープンさせていると聞いて、実際に行ってみた。店舗名は「N+」(エヌプラス)といって、都内のららぽーと富士見(2019年3月20日OPEN)と越谷レイクタウン(2019年3月29日OPEN)に計2店舗の出店。そして3店舗目は、10月下旬にテラスモール松戸にオープンさせる予定のようだ。購入サンプルの品質ネームを見ると発売元が株式会社Nプラスとなっている。住所がニトリ東京本部の住所と同じで、株式会社Nプラスの代表取締役はニトリの現役役員が就いている。これは、ほぼ間違いなくニトリが関係していると見て良さそうだ。店舗名の「N+」(エヌプラス)は、ニトリで好評を博した接触冷感素材を使った「Nクール」、吸湿発熱素材を使用した「Nウォーム」。その他「Nグリップ」や「Nクリック」と機能特化型のPB商品で使われている「N」とニトリの頭文字を由来としたのだろうか。

 

PB戦略として領域を広げる

ニトリのPB戦略の進化としてNブランドの次に取り組んでいるのが、商品グレードを取り入れたプライス型MD。廉価ブランドの「プライスバリュー」、中価格帯クォリティブランドの「アンドスタイル」の2ラインを設定。「価格」、「品質」、「デザイン」のバランスを取りながら「住まいの豊かさを世界の人々に提供する」ことをコンセプトに取り扱い品種を広げてきている。2022年に1000店舗・売上高1兆円、2032年3000店舗、売上高2兆円を目標にしている。国内店舗ではホームファッション中心とした小型店の「ニトリエクスプレス」、「デコホーム」といった新業態店で都市部への出店を加速させている。ファニチャーからファブリックに領域を広げ、今ではオリジナルのランドセルまで扱っている。アパレル関連についても、機能肌着からルームウエアまで年々少しずつ展開商品が増えてきている。今年の夏は、TV番組「ヒルナンデス」とコラボレーションしたワンピースを販売して話題を呼んだ。ニトリ本業では実用衣料から序々にアパレル関連に向けてラインを広げつつある中で、今回の「N+」の出店は、将来的なビジョンを見据えた実験店舗なのだろう。

 

あえてニトリと謳わず

ららぽーと富士見の3Fにテナントしている「N+」は、ABCマートやGAP、グローバルワーク、ゼビオスポーツ、家電量販店のノジマといった廉価型でファミリー志向の高いフロアに位置している。同SC内の2Fには小型フォーマットタイプのニトリEXPRESSがテナントしている。公式HP(https://www.nplus.style/)は立ち上げているものの、その他のプローモーションを展開しているわけではないので、知名度はほぼゼロに近い。現段階ではニトリと関連づけられるツールもないので、「N+」という店舗名と外装デザインだけでは、誰もニトリとの関係についてイメージ出来る人はいない。すると、無名に近いレディスファッションショップのひとつにしか過ぎないのである。又、残念なことに店頭でファッションアピールするような仕掛けや、機能に前面に打ち出したPOP等でお客を誘引させる仕掛けものない。私が行った土曜日の午後、他店と比べ来店客は少ない状態だった。ファッションテナント111店舗の中に埋没してしまっている印象を持った。

 

ZARA的なカラーMDにチャレンジ

公式HPよると「私のための大人服」として年齢をかさねながらも若々しさや感性を失わない大人の女性が毎日着たいと思うファッションを提案するのがブランドコンセプトのようだ。イメージスナップを見た感じでは40,50代以上をターゲットにしているように思える。通勤着からルームウエアまでそれぞれの生活シーンに合ったファッションをカラーコーディネイトとして提案していくとある。よってファッションカテゴリーも「オレンジ&イエロー」、「グリーン&ブルー」、「モノトーン」、「ルームウエア」となっている。シーズンテーマとしてカラーMDを取り上げる例はあるものの、ブランドコンセプトに特定色の組み合わせを持ってくるという発想は、実に大胆であると同時にあまり類を見ない奇抜なチャレンジにも見える。次シーズン以降の展開に注視したい部分でもある。

「お、ねだん以上」!?

プライスラインは別表のようにまとめてみた。アパレルに関しては\1,000以下の商品はなく\1,990、\2,990、\3,990を中心とした構成。特に\1,000代に3プライス揃えているのは低価格にこだわろうとする意思の表れと見てとれる。オンラインショップも持たず、現状2店舗だけの発注量でこの価格帯の物作りが出来ているのには驚かされる。ニトリという好調企業を背景とした強力なパートナシップがない限り実現不可能な取組としか考えられない。しかし、ニトリが掲げる「お、ねだん以上。」と云うとどうだろうか。ニトリホールディングスの似鳥昭雄会長は著者の中で、「お、ねだん以上。ニトリ」については次のように語っている。「競合商品よりも3~5割値段が安いか3割以上は品質、機能性が優れていることが大前提」とある。仮に競合社をユニクロや無印良品と設定した場合、前述ほどの優位性は、まだ感じられない。SCにテナントしている事から考えても低価格を狙いつつも、客単価を落とすわけにはいかない。それには買い上げ点数を上げていく必要がある。アパレル以外の取り扱いアイテムは帽子、カバン、ストール、アクセサリー、くつ下があるが、補完的な印象が強くどこまでついで買いに貢献出来ているかは疑わしい限りだ。

 

優位性について課題を残す

実際に展開している商品を2点ほど購入してみた。1つは夏の温度調節に便利な羽織アイテムのシアーニットカーディガンで定番商品のひとつ。セール対象で30%OFFの\2,093で購入、元上代は\2,990の商品。甘編みによる透明さから清涼感のあるカーディガンで素材組成はアクリル95%ポリエステル5%のほぼアクリルニットカーディガン。この商品と同レベルの商品を無印良品で探すと、オーガニックコットン・強撚・UVカットカーディガンとなり、ユニクロではUVカット・スーピマコットン・カーディガンが同プライスで購入できる商品となる。それぞれプレミアムコットンを主体にUV機能を掛け合わせた仕様となり、肌触りや素材そのものの質感という点においてアクリルがコットンに勝るとは思えない。いささか気の毒な比較かも知れないが、レッドオーシャンといえるレディスデイリーファッション市場の現実のレベル。そしてもう1点購入したのはバンザイスリーブ・ボーダー柄カットソー。元上代は\2,490の30%OFFの\1,743で購入、ベーシックな商品の品揃えが中心としている中で、感性に訴えたようなデザインの商品も混じっているのは混沌とした印象。特に着てみないとシルエットの特徴が判らない商品で、ハンギングしたままでは売りにくい商品、ターゲットとする年齢感も含め疑問の残る商品だった。

売場は色別陳列にまとめられていて、良く言えばZARA風。しかし、ZARAのように集合マネキンや高さを使った変化テクニックで凄む迫力が有る訳ではない。秋物の新作表記も無ければ、やたら上半身トルソーだけが目立った店内にはファッションを楽しむ雰囲気は感じられなかった。

 

以上の事から、現時点での「N+」に脅威を感じる企業は少ないと思う。本業のニトリ内で領域を広げられる方が、集客力や「N」ブランドの認知、店舗数も考えると、よほど脅威となるに違いない。その前段階の仕掛けだとすればかなり大掛かりな取組だといえる。ニトリ内での領域の拡大スピードが思うように進まず、思い切ってスピンアウトさせてみたのだとすると、かなりの荒治療にも見える。いずれにしても、目立ったプローモーションがないまま現時点での売れ行きを、どう理解して何を判断していくのか。ファッション・アパレルというレッドオーシャン市場にわざわざスピアウトの形で出店してみた意図と狙いは、これからの「N+」の動向に関わってくるはずだ。

(2019年8月23日に執筆)

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