ABCマートがチャレンジする新たな波
靴専門チェーン店のABCマートが好調のようだ。2018年3~11月までの連結決算で累計売上高1961億円(前年同期比4.0%増)、営業利益337億円(前年同期比1.7%増)と同期間として3年ぶりに最高益を更新。2019年2月期末には創業40周年の記念配当40円を実施、普通配当130円と合わせて年間配当は170円と大盤振る舞いをする。好調要因のひとつとして挙げられているのは、「アスレジャー」(街にも着ていけるようなスポーツスタイル)の流行を追い風に、主力のスニーカーが販売好調だったこと。そして未だ取扱量、売上高構成比は低いものの、アパレルが前年同期比で2ケタ増の高い伸びを記録したことによる。
片やスポーツカテゴリー大手のアルペンでは、年明け早々に45~65歳未満の社員を対象に300名規模の希望退職者を募るといった状況もある。同じように「スポーツ」をキーワードにカテゴリー総合取り扱い大手のアルペンと、シューズ専門店として成長してきたABCマートとのこの差は何だろうか。今回は好調ABCマートの最新業態店の取組みや、克服すべき課題について考えてみたい。
ABCマート・グランドステージ銀座店のリニューアル
ABCマート・グランドステージは従来の品揃えから高価格帯の靴やアパレルを取り扱う大型店で全国に15店舗を展開している。その中でも昨年の10月にリニューアルオープンした銀座店は旗艦店としての位置づけだ。銀座2丁目に地上3階建てで内装デザインを、米国シアトルを拠点とした設計事務所の協力も得た上質な空間造りとなっている。出店場所自体、海外旅行者のインバウンド需要も期待できるし、2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックの競技場や選手村・各国のメディア拠点が集中する東京ベイエリアに近いことも出店意図のひとつと考えられる。
1階は、最新スニーカーで片面をナイキ、もう片方をアディダスと2大NBを中心とした品揃え。アスレジャースタイルを全身マネキンでアピールして、子供専用コーナーも設置した。2階では、その他のスニーカーに加えて直輸入したビジネスシューズを展開している。3階は関連会社でもあるレザーシューズ&リペア専門店「STUMP TOWN」が出店。「Danner」や「WHITE’S BOOTS」といったアメリカのブランドを中心とした20万円を超えるハンドメイドブーツなどを取り扱う。建物全体を見渡してみると、ややカオスとも思える世界観だが、フロア単位・コーナーブロックで区切られているため、大きな違和感は無かった。
好立地で集客が実る
この銀座店の活況振りは立地の良さがあげられるだろう。外国人観光客以外でも銀座には幅広い客層を呼び込む素地がある。若いファミリー層やその上の大人世代に「アスレジャー」の世界観を打ち出すには、店舗の広さも含め伝わりやすかったと思われる。又、それぞれNBブランド単位で際立たせたやり方は、ビギナーを含めた幅広い客層へのインパクトには充分な迫力があった。
ABC以外の業態店では苦戦
銀座店のオープンに際し野口実代表取締役社長は「マーケットのカジュアル化とともにスニーカーやデニム、スウエットなどのカジュアルさに価値を見出して投資するマーケットの頂点で我々は新たなカジュアルの波を作っていきたい」との要旨の発言があった。
しかし、この新たなカジュアルの波作りは試行錯誤しているように見える。それは2015年に立ち上げた「CALIFORNIA・DEPT」、「BILLY’S」の両店舗とも、未だ道途中といった印象を受けるためだ。「CALIFORNIA・DEPT」は米国西海岸のライフスタイルをコンセプトにライセンスブランドのVANSを中心に人気ブランドとのコラボレーションやファッション誌への掲載で集客を図っているものの、認知、ストアロイヤリティの浸透には、未だ時間が掛かりそうに感じる。又、「BILLY’S」の方は高感度なスニーカー・セレクトショップとの位置づけだが、こちらは株式会社テクストカンパニーが運営するatmosやkineticsに押されてしまっている印象。
急成長株として注目のテクストカンパニー
このテクストカンパニーは、97年設立の高感度スニーカーセレクト専門店。現在、国内38店舗、海外4店舗で売上高も100億円に届きそうな勢いのある注目店だ。特徴のひとつには坪効率の高いビジネスモデルで、売り場面積が90~120㎡クラスの店舗もあって日販100万円を超える店舗もある。ECの売上構成比は35%と無店舗による売上構成比も高い。コラボレーションを始めストア別注、拘ったセレクションに定評があって海外ツアー客からの人気もある。その背景にはスニーカー・オタク的に「スニーカー愛」の高いスタッフと、カリスマ性のあるオーナーとのコンビネーションが良い回転軸を生み出しているのだろう。特に池袋、新宿、渋谷、原宿といったエリアでは、高感度な商品を買い求めに来る若者が多いエリア。こうしたトレンド発信地では、しっかりとしたストア・ドメインを確立していかないと、オピニオン・リーダーやインフルエンサー達から支持を集めるのは難しい。「高感度」は自らの発信というより顧客に認められて初めて成立するビジネスなだけに、人材とノウハウが必要なのだ。
ライトオンとのコラボレーション店舗
他に、新たな取組として注目したいのは、ジーンズカジュアル大手のライトオンとのコラボレーション店舗。2017年に富山と岐阜にそれぞれ1店舗ずつ出店、双方の強みを活かしたコラボ店舗は、服と靴を一度に揃えられる利便性を特徴としたタッグ。又、人口減少、流出問題を抱える地方に向けて、運営、出店コストを軽減させるやり方として取り組んでいる。従来のカテゴリー枠を超えて、2社共同で運営するスタイルがひとつのロールモデルとして広がっていくのか気になるところだ。
さらに拡大しそうなスニーカー市場
ファッション・トレンドからみても、スニーカーブームは未だ当分続くだろう。それは「世の中のカジュアル化」も背景としてある。休日の外出、レジャー、旅行、スポーツ、ビジネスといった幅広いライフスタイルシーンにまで、履き心地が良いというスニーカーのエッセンスは浸透していく。日本のスニーカー市場はさらに新規参入、拡大、選別・淘汰が、繰り返されていくだろう。その中で優良靴チェーン店としてABCマートの次のビジネス・ステップの成否も合わせて注目していきたい。
(2019年1月24日に執筆したものです)
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