オマージュが紡ぐファッションのクリエイトについて
世の中、ニセ物があるという事は当然本物もある。食品の世界では第二次世界大戦が始まって以降、醤油の代わりに代用醤油が。砂糖の代わりにサッカリンやズルチンといった人口甘味料。日本酒の代わりに三増酒、焼酎の代わりにカストリが造られた時代があった。その当時の代用は必要に迫られて生まれたもので、原材料が手に入らないから仕方ない。それは貧困の時代を支える貴重な食料となった。又、精肉代わりに食べられたホルモンはその後、市民権を得て今日では立派な本物料理に格上げされた例さえある。
ブート品の摘発
警視庁生活経済課などは5日までに、グッチやシャネルといった高級ブランドのロゴを無断使用した「ブート品」と呼ばれる古着を販売目的で所持したとして、商標法違反容疑で衣料店経営の男女2人を逮捕した。同課によると、ブート品の摘発は全国初とみられる。逮捕容疑は池袋、原宿等の複数の店鋪で、グッチやシャネルのロゴを無断使用したTシャツやトレーナーなどを販売目的で所持した疑い。「ブート」とは「密造、違法の」などの意味を持つ「ブートレッグ(bootleg)」の略語。非正規ルートとして流通した物や、海賊版等も含まれる。私も90年代頃だったか好きな有名バンドのスタジオデモの音源が録音されたCDを「ブート盤」として購入して聞いていた。
本家が認めたブート品
実は今、ファッショントレンドとしてこの「ブート」が注目され始めている。昨年発表されたGucciのコレクションの中にDapper Dan(1982年にハーレムで偽Gucciや偽Louis Vuittonを売っていた有名店。1992年に訴訟が起きて閉店)のデザインに酷似した商品が、発覚。Gucciのアートディレクターも公に認め「Dapper Danへのオマージュ」と云ったコメントを残している。又、SupremeがNIKEのSBラインで出したジャケットの元ネタにDapper Danが「ブート」デザインしたものが使われていたりする。「ブート」デザインを本家がオマージュする、そんな逆転の現象が起きているのだ。
日本での商標権、意匠権、著作権と現状について
日本のファッションロー(fashion law)の考え方には、ブランドを守る商標法、デザインを守る意匠法、著作物を守る著作権法などが含まれる。特に日本では「実用品は著作権では保護しない」という原則があって、ファッションショーの中でモデルが身につけたコーディネイトは著作権にあたらないとの判決も下っている。では、なぜ実用品のデザインは著作権では保護されないのかというと、意匠権という別の権利で守る仕組みがあるからだ。しかし、この意匠権は出願から登録までに7カ月を要し登録、維持費もかかる。自動車や電化製品といったライフサイクルの長い消費財ならまだしも、シーズン単位で生まれ変わるファッションに関して意匠権は使いにくいのが現状だ。
もはや、ネット社会が浸透した現代では世界中のランウェイやコレクションの情報を、世界中の誰もが簡単に手に入れられるようになってしまった。昔は、ランウェイやシーズンコレクションを行うブランドと、それらのデザインをコピーして安価に供給するブランドはサンチェ(Sentier)ブランドと呼ばれてバカにしていた文化もあったようだ。それがいつの間にやらファストファッションともてはやされ、H&Mでもショーを開催したり、一流デザイナーとコラボレーションしたりして、両者の境界線はいつの間にか随分と薄まりつつあるのかも知れない。
完コピによって、元の製作者の労力や知的財産が侵害されるのは許されないと思うのだが、バンドワゴン効果によってトレンドやブームが作り出されるのもファッション産業。「本物とニセ物」。断じにくい世界がこの業界の特徴のひとつでもある。
(2018年7月12日に執筆したものです)
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